2024年冬CCS特集:モルシス

モデリティ対応機能充実、巨大化学空間を高効率探索

 2024.12.03−モルシスは、研究開発向けソフトの専業ベンダーで、ライフサイエンスとマテリアルサイエンスの両分野において幅広いソリューションを提供している。実績豊富なモデリング&シミュレーションから、インフォマティクス領域までの各種システムを提供しており、クラウド型電子実験ノートなどの分野でも引き合いは好調だという。

 同社は、加ケミカルコンピューティンググループ(CCG)の子会社であり、今年4月からはCCGの100%出資の体制に変わっている。ただ、取締役会の体制はカナダ側2人/日本側2人(日本側1人増員)であり、これまで通りに経営方針や事業戦略は日本側が主導するかたちを維持する。引き続き、CCGにおけるアジアの販売チャンネルを安定的に管理しており、代理店を置いている中国と韓国に加え、最近問い合わせがあったフィリピン、ベトナム、カンボジアもカバーするようになったという。また、CCG以外のソフトウエアも変わりなく積極的に取り扱っていく。

 さて、ライフサイエンス系の主力製品は、CCG社の統合計算化学システム「MOE」。とくに、最近ではタンパク質立体構造データベースシステム「PSILO」を組み合わせた創薬モダリティに対応した機能を充実させてきている。抗体医薬品開発に必要な抗体の立体構造予測、動物由来の抗体のヒト化、抗原との複合体構造予測・相互作用予測、エピトープ/パラトープマッピング、バーチャル変異体の構築(デザイン計算)、物性予測−などを一貫したユーザーインターフェースのもとで行うことが可能。また、新しいモダリティとして注目されている標的タンパク質分解誘導薬(TPD)に対応するため、キメラ分子を介するTPD特有の三元複合体構造をモデリングするツールが実装されている。

 こうしたモダリティ関連の新しい機能の多くは、MOEで利用できるSVLライブラリーに登録されており、ユーザーはそれらを自由に使用したり改造したりすることが可能。モルシスも独自にSVLプログラムを開発して公開するとともに、抗体医薬を製剤化する際に問題となる賦形剤分子との組み合わせによる粘度のシミュレーションなど、社内での研究事例を学会でポスター発表するなどの活動も行っている。

 そのほか、低分子薬関係では独バイオソルヴITのケミカルスペース高速検索ツール「InfiniSee」の関心が高まっており、とくにEnamine社最大のケミカルスペースxREAL Space専用の「InfiniSee xREAL」は、ヒットした化合物がEnamine社が合成・提供してくれる(合成成功率80%以上)ということで人気が出ている。2兆4,000億のケミカルスペースからファーマコフォアやフィンガープリントの類似、部分構造マッチングなどで検索し、受容体構造に基づくドッキングシミュレーションによるスクリーニングまでを実施することが可能。通常、数十億分子のドッキング計算は数カ月から数年かかるが、数日で完了させることができるという。

 さらに、西ケモターゲッツの安全性知識ベースプラットフォーム「Clarity Suite」は全世界の医薬品有害事象自発報告情報および学術会議の要旨から安全性情報を集めている。バイオ医薬品も対象にしているため、ヒトを対象にした貴重な情報が得られるとして注目度が高い。西メドバイオインフォマティクスの「DISGENET」も、疾患関連遺伝子および変異のデータベースであり、タンパク質立体構造研究との関連で注目されてきているという。

 一方、マテリアルサイエンス系は米マテリアルズデザインの材料設計支援統合システム「MedeA」が主力で、機能も豊富なため多くのユーザーから支持されている。とくに、新機能の「MedeA PhaseField」の紹介に力を入れる。これは新しいマルチスケールモデリングツールで、これまでの原子・分子スケールよりも大きいマイクロストラクチャーの連続体モデルを扱う。空間スケールはマイクロメートル、時間スケールは日の単位になる。具体的には、相分離、金属の表面酸化、酸化物の相転移など、光学顕微鏡で観測できる現象を予測することが可能。早ければ年内にもリリース予定である。MedeA全体としては原子・分子(量子力学法)から連続体(フェーズフィールド法)まで、同一プラットフォームで取り扱えることが利点となるだろう。


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