2024年冬CCS特集:TSテクノロジー
粗視化で産業応用へ適用、TSモチーフ法で新規反応
2024.12.03−TSテクノロジーは、計算化学や人工知能(AI)などのシミュレーション技術を組み合わせ、化学産業の研究開発を支援している。山口大学発のスタートアップだが、設立から10年以上の歴史を経ており、すでに研究受託では100件以上の実績を重ねている。計算化学用のHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)計算機の構築・販売にも力を入れている。
同社では、反応解析、物性推算、触媒開発、分子設計、反応速度シミュレーションなどさまざまなテーマで高精度な計算を実施しており、とくにFTE(Full Time Equivalent)契約では専属の研究員と計算資源を一定期間確保して、高度な研究テーマにも対応できる。最近では、材料系の粗視化シミュレーションにも取り組み始めている。これは、分子動力学法(MD)計算の対象を全原子系から粗視化系へと広げるもので、高分子ポリマーなどの数万原子クラスの系に適用したいとしている。MDソルバーには高速なGROMACSを使用し、時間スケールもマイクロ秒オーダーを狙って、産業応用に適した領域に対応していく。このために社内の計算資源も強化しており、全体として長時間/大規模系のシミュレーションに力を入れるということだ。
また、同社は新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」(プロジェクトリーダーは中部大学の山本尚教授)に参画し、「合成プロセス設計技術の開発」のパートの実施機関を担当している。合成経路創出システム「AIst-syn」と同社のキネティクス(反応速度)シミュレーションソフト「Kinerator」を組み合わせてスクリーニングを行い、現在は7化合物を合成して4化合物(医薬3、農薬1)の検証に成功、2化合物(医薬1、農薬1)も検証が終わりつつあるという。計算によるスクリーニングを利用することで、研究の工数を5分の1に削減することを目指している。プロジェクトの期限は2026年3月であり、すでに出口戦略も検討中。RaaS(サービスとしてのリサーチ)としての社会実装を予定しており、ソフトウエアと実験装置(自動実験と分析、試薬や原材料の自動ハンドリング、フローリアクターによるパイロットプラント)を組み合わせたサービスになる。
一方、このプロジェクトの研究成果から派生した技術として、「TSモチーフ法」の研究を推進している。これは、化学反応の遷移状態(TS)を集積したデータベース「TSDB」を利用したもので、原子種の異なる反応であってもTS構造が幾何学的(主に化学結合が生成あるいは切断される距離)に類似したものが多く存在することに着目し、ある反応のTS構造から他の反応のTS構造を効率的に探索する方法を「TSモチーフ法」と名付けている。TS構造を特徴量として機械学習(自己組織化マップ)で分類したところ、有機化学者の感覚に合う分類結果が得られた。この研究を進めれば新規反応の開発にも役立つため、RaaSサービスとの統合も期待されるということだ。
なお、同社は今年新たに新化学技術推進協会(JACI)に加盟した。今後、JACI/GSCシンポジウムなどのイベントに参加し、PR活動にも力を入れていくことにしている。