2025年冬CCS特集:第1部総論(業界動向)

統合化ニーズに応えグループ化拡大

 2025.12.03−コンピューターケミストリーシステム(CCS)は、生命科学および材料科学研究のプラットフォームとなるソリューション。近年は研究情報全体をカバーするデータ基盤となるべく、ラボ内の実験装置や計測機器などとのデータ連携が活発に図られてきている。また、計算化学とデータサイエンス(人工知能/機械学習)の融合、バイオ医薬品などの創薬モダリティに対応するため生物学的なマルチオミクス解析の活用が組み込まれるなど、ソフトウエアに対する要求も複合化・統合化してきている。そうしたことを背景に、ベンダー側は多様なソフトを束ね、グループ化を進める傾向が鮮明になってきた。とくに、欧米のベンダーが精力的にM&Aを展開している。

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◆◆機器・PLMなどが再編主導◆◆

 CCSは、分子構造・結晶構造などを設計し、その特性や物性を計算・予測するモデリング&シミュレーション(M&S)系のシステムと、合成した物質の化学構造を登録し、評価試験などの実験データを含めてデータベース(DB)化して管理・活用するインフォマティクス系のシステムに大きく分かれる。適用対象は、医薬品を中心とするライフサイエンスと、化学・材料分野のマテリアルサイエンスに分けられる。最近では、計算も実験・計測も、最終的には人工知能(AI)や機械学習のためのデータ源になるという考え方に基づく「データ駆動型研究」が主流になってきた。このため、電子実験ノートなどをデータプラットフォームとし、計算や計測につながるコネクターを組み込むといったかたちでのシステム化が多くなってきている。

 CCSベンダーのグループ化はいくつかのパターンがみられ、科学機器・医療機器などのメーカーがコアになるケースがある。現在はレビティとして独立しているが、パーキンエルマーがケンブリッジソフトを2011年に傘下に収めたことが初期の代表事例だろう。そのレビティは今年11月に分析化学やプロセス化学向けの解析ソフトで実績豊富なACD/Labsを買収すると発表している。高度なスペクトル解析や分子特性およびADMET(体内動態および毒性)予測、ハイスループット実験、研究データに基づく意思決定支援などのソフトウエア技術を持っている。国内では、レビティとACD/Labsの両方の代理店を富士通が務めており、混乱は起きないと考えられる。

 核磁気共鳴装置(NMR)のブルカーを起源とするSciYも、ソフトウエアのグループ化を進めている。Mestrelab Mnova、Arxspan、SynTQ、LOGS、ZONTAL、Allchemy、WebLab LIMSなどのブランドが集積されたもので、全体としてラボ内のデータ統合、分析・計測機器との連携をメインにしたグループ構成となっている。また、医療機器や検査装置のメーカーであるダナハーは、バイオ医薬品分野の研究支援を強化するためにソフトウエアベンダーなどの買収を進めており、昨年7月に多様な生物学データの解析に特化したジーンデータを買収。そのほか、abcam、ベックマンコールター、IDBS、Leica、モレキュラーデバイス、SCIEX、aldevron、XXIDT、cytiva、PALL、フェノメックスなどをグループに加えている。

 別のパターンは、PLM(製品ライフサイクル管理)などのエンジニアリングソフトベンダーが買収するケースだ。初期の例は、2014年にダッソー・システムズがアクセルリス(現在のBIOVIAブランド)を買収したケースがあった。今年4月には、シーメンスがドットマティクスを買収した。CCS業界には過去も多くの買収劇があったが、おそらく過去最大に当たる51億ドルという金額での買収で、関係各所に驚きを与えた。ドットマティクスは2021年から親会社になっていたインサイトフルサイエンスの製品ポートフォリオを引き継いでおり、Prism、Geneious、SnapGene、Lab Archives、nQuery、Protein Metrics、EasyPanel、OMIQ、FCS Express、Soft Genetics、M-Star、Virscidian、BioGlyph−の13ブランドを集結させている。こちらのグループ構成はバイオ系ソフトに集中しているため、シーメンス傘下では異なる方面のソフトベンダーの買収が行われる可能性もあるだろう。

 そのほか、EDA(電子設計自動化)ベンダーのシノプシスが、電子デバイスのナノスケールシミュレーションを行うクオンタムワイズを2017年9月に買収、2022年8月にケイデンスがオープンアイを買収し、「OpenEye, Cadence Molecular Sciences」をスタートさせた事例もあるが、これらについてはその後グループが拡大する動きはみせていない。

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◆◆高まるシステム間連携ニーズ◆◆

 こうしたベンダーの動きの背景には、生命科学も材料科学も研究DX(デジタルトランスフォーメーション)、データ駆動型研究を進めるために、数多くのソフトウエアを使わなければならなくなっている実態を反映しているといえるだろう。とくに、計算化学やモデリング&解析ソフト、実験データ管理・化合物管理、ラボオートメーションとラボデータ管理は、従来は別々のシステム領域であったため、それらを共通のプラットフォームで束ねることは困難で複雑な作業となる。ソフトウエアの重要性がますます高まってきている。

 一昔前は、ベンダーがグループ化する目的はユーザーを囲い込むことだった。いまもベンダーの本音はグループ内でニーズを完結させてほしいということだろうが、最近は特定のベンダーにロックインされないオープン化が基本になっており、ユーザーニーズも多様化しグループ化してもカバーしきれないことが多い。ニーズに応えて、それぞれのグループを構成するベンダーを増やす努力はこれからも図られるだろうが、アプリケーションプログラミングインターフェイス(API)などシステム間連携を図る技術が普及していることから、ユーザー側は特定のグループにこだわることなく使いたいソフトを使うというスタイルが主流になるだろう。逆にいうと、ベンダー側もグループを越えた連携ができるように対応せざるを得ないということである。

 日本市場においても、欧米ベンダーの日本法人がグローバルに同調した戦略を展開している。また、システムインテグレーター(SIer)がこうしたニーズに対応し、複数のベンダー製品を組み合わせるサービスを展開することも多い。大きなIT企業がこの市場に乗り出すケースも増えてくると思われる。

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◆◆海外ベンダー業績好調、ソフト販売に高い伸び◆◆

 さて、株式公開している海外ベンダーの経営状況から今年のCCS市場の動向を探ってみよう。まず、分子モデリング&シミュレーションの大手である米シュレーディンガーが2025年度第3四半期(今年9月期)までの業績を発表している。それによると、9カ月間の売り上げは1億6,863万4,000ドルで前年同期比41.4%増と好調。このうち、ソフトウエア製品とサービスが1億3,021万8,000ドルの同29.3%増、創薬事業が3,841万6,000ドルで、前年同期の2倍以上の伸び(107.4%増)となっている。12月までの通期予想は、ソフトウエアの成長は前年比8%から13%の間、創薬収益は4,900万ドルから5,200万ドルの間になるとしている。創薬事業はプロジェクトベースであるため年ごとの増減が大きいことがあり、今期は前年の落ち込みから一気に反転した。ソフトウエア収益は第4四半期にやや減速するとの予想だが、今期の成長は大量にライセンスを使用する大口の顧客が増えたからだという。計算化学に対する需要が伸びていることは間違いない。

 また、バイオシミュレーション技術をコアに創薬から上市に至るまでの医薬品開発ソリューションを提供するサターラの2025年度第3四半期決算(今年9月期)では、9カ月間の総売上が3億1,520万ドルで、前年同期比10.7%増。内訳は、ソフトウエア事業が1億3,690万ドルの同20.7%増、サービス事業は1億7,830万ドルの同4.0%増となっている。ソフト事業の拡大は、前年に買収したケムアクソンからの収益の貢献も大きいようだ。通年の予想では、2025年の収益は4億1,500万ドルから4億2,000万ドルの範囲になる見込みだという。

 サターラと競合する事業が多いシミュレーションズプラスの2025年度第3四半期(今年5月期)は、総売上6,172万9,000ドルの前年同期比20.2%増。内訳は、ソフトウエアが3,681万4,000ドルの同18.3%増、サービスが2,490万5,000ドルの同23.1%増となっている。同社はグローバルの地域別売上高も公表しており、アメリカ大陸が4,512万5,000ドル(同25.9%増)、欧州・中東・アフリカが1,122万4,000ドル(同2.2%減)、アジア太平洋が537万ドル(同31.3%増)という結果だった。2025年度通期(今年8月期)については総収入が7,910万ドルで、前年度比13.0%増という数字が発表されている。

 次に、レビティの決算もみてみよう。2025年第3四半期(今年9月期)が公表されているが、CCS関連のソフト製品を取り扱うSignalsソフトウェア事業部を含むライフサイエンス部門でみると、売り上げは9カ月間で10億4,911万5,000ドルの前年同期比2.5%増。このうち15%ほどがソフト事業だとみられている。なお、レビティ全体の売り上げは9カ月間で20億8,399万5,000ドルの同2.9%増となっている。通期の収益は28億300万ドルから28億8,800万ドルと予想しており、2〜4%の成長を見込んでいる。

 これらの海外ベンダーの状況からすると、今年のCCS市場も好調だといえるだろう。日米間では、ソフトウエアの輸出入には相互に関税がかからない協定になっており、いわゆるトランプ関税問題も、CCS関係では需要家業界の景況への影響は考えられるが、直接の影響はほとんどない。ただ、米国の物価高のために海外のソフト価格はある場合大きく上昇しており、ユーザーには痛いところだ。また、為替安が進行しているため、海外ベンダーの日本法人はかなりの影響を受けているところもある。


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