2025年冬CCS特集:第3部総論 バイオインフォマティクス
重要性増す医療への応用、オミクスデータの利用拡大
2025.10.03−計測技術・システムの進歩とともに、バイオインフォマティクスの活用も高度化している。ゲノム(遺伝子)、プロテオーム(タンパク質)、メタボローム(代謝物)などの網羅的解析に基づくオミクス研究が進展し、各階層のオミクスデータを連携させるマルチオミクス解析も主流になってきている。計測機器からは多様なデータが得られるようになり、それらの複雑な相互作用やネットワーク関係を知るためにバイオインフォマティクスが処理すべきデータスケールは大規模化の一途をたどっている。ソフトウエアとしては、複雑な関係性を理解しやすくするためのビジュアル化機能が重要になってきている。また、データ処理や解析を助ける人工知能(AI)の活用も今後不可欠になるだろう。
生命現象は、遺伝子(ゲノミクス)が転写され、転写産物(トランスクリプトミクス)が翻訳されてタンパク質(プロテオミクス)になり、タンパク質は代謝物(メタボロミクス)との相互作用によって細胞の恒常性に大きく寄与する。細胞の機能や形態は表現型(フェノミクス)として観察される。
最近のバイオインフォマティクスは医療との関係が重要になっており、患者の病理組織から得たサンプルを計測機器にかけ、早期診断の迅速化、治療効果や毒性の評価、臨床意思決定の支援などを行うことが目的とされることが多い。とくに、メタボロミクスやリピドミクスは、ゲノム情報が実際に実行された結果として、体のいまの状態をあらわす指標となるため、疾患にともなう生命現象を解明することに大きく貢献できるとして注目されている。ところが、この分野では試料調整法や分析法の標準が定まっておらず、同じ試料を扱っても分析を行う施設間の違いが出てしまい、データにばらつきがあるため、共有や相互利用が難しいという問題があった。
そこで現在、「脂質解析統合プラットフォーム」を開発するプロジェクトが進行中。島津製作所と九州大学、かずさDNA研究所が共同で開設した「ABiS Lab」(エビスラボ)を拠点として行われており、分析条件・前処理手順、標準試料、測定データ解析システムを開発し、信頼性の高い脂質データベースを構築することにより、脂質測定データの集積や施設間利用を促進することが狙いとなっている。
リピドミクスでは、代謝物に含まれる幅広い極性を有する分子種を一斉分析する必要があるほか、同重体や構造異性体、立体異性体が多数存在していることなどが課題とされるという。これを解決するため、機器としては超臨界流体クロマトグラフ三連四重極型質量分析計が利用されている。主要脂質類やオキシリピン類、ステロール類などのワイドターゲットを高精度に定量することが可能。自動化のためのシステム開発も進んでいる。臨床応用などへの展開も期待されるところだ。